安田隆夫氏の
「4次元」ビジネス―新業態創造への闘いを読んで

ディスカウントストアをして急成長を続けているドン・キホーテ社の秘密に迫ります。
西荻窪での泥棒市場としての創業、流通業界の常識から大きく逸脱した苦肉の経営手法など、
人生の面白さ、執念を持って取り組むことの大切さを非常に学べる本でした。
ディスカウントストアとは、また今の日本の小売業にとって足りないものはなにか、
その解の糸口を見つけさせてくれるような気がします。

著者紹介

安田隆夫

生年月日:1949年(2017年時点で68歳)
出身:岐阜県大垣市
出身高校:岐阜県立大垣南高等学校
出身大学:慶應義塾大学法学部
1978年:東京都新宿区に泥棒市場を開店
1980年:株式会社ジャスト(現株式会社ドン・キホーテ)設立
1982年:株式会社リーダーを設立
1989年:第一号店である「ドン・キホーテ」府中店を開店
現在は創業会長兼最高顧問に就任

生い立ちについて

安田氏は1949年、岐阜県の大垣氏で生まれたそうです。2017年時点では68歳であり、同学年には歌手で俳優の武田鉄矢さんや俳優の市村正親さんがいらっしゃいます。

今は一代で大企業を築いた安田氏ではございますが、全てが順風満帆な訳ではございません。
安田氏は高校を卒業後慶應義塾大学に進学しているのですが、1年生の時に留年をし、岐阜に住む親御さんから仕送りをストップされてしまったそうです。この時は新聞配達や港湾労働のアルバイトをすることでお金を稼ぎ、無事に卒業することができたそうです。

苦難を乗り越え続けた

卒業後、安田氏は今後独立し易そうだから、という理由で不動産会社へ就職をしたそうです。しかしながら、1973年、79年ごろに発生したオイルショックに巻き込まれ、会社はなんと入社後10ヶ月で倒産してしまったそうです。
大学から卒業したてで、無職となってしまった安田氏ですが、諦めることなく、今度は杉並区に日用雑貨等の処分品を扱う安売り店を開業することになるのです。
これがドン・キホーテの初めとなったのでした。

ドン・キホーテ社について

企業名:株式会社ドン・キホーテ
本社所在地:東京都目黒区青葉台2-19-10
設立:2013年8月14日(旧ドンキホーテ設立は1980年9月5日)
資本金:1億円(2016年6月30日時点)
売上高: 5,326億71百万円(2016年6月期)
代表者:大原孝治

安田氏のスタートは西荻窪

ドン・キホーテの前身である
「泥棒市場」の存在

新卒で入社をした不動産会社が倒産した後、西荻窪の僅かなスペースで前身である「泥棒市場」を開店。当初は商いの難しさを直面するも、深夜まで1人で店を開けていたことからナイトマーケットという市場を発掘した。右も左もわからない、教科書もない、そんな状況からどドン・キホーテは始まったのです。

流通業界の常識を覆す

苦肉の策からの光明

泥棒市場は20坪の敷地に従業員は安田氏一人、店番をする人が自分以外にいないため、トイレや外に出てしまうと誰でも店に入って物を盗める無法地帯だったようです。仕入れ資金がない中で廃盤品やサンプル品を仕入れたり、倉庫がないために商品を通路におき、棚には詰めるだけ詰めるという手法、更には荷解きは夜の間に行わなければならないという状況だったそうです。
夜中に荷解きをしている時に、偶然立ち寄ったお客さんを招き入れた所、コンビニの24時間営業などがない時代に「こんな夜遅くまで店を空けているなんて!」と評判を呼び、年商2億円を稼ぐまでに成長したそうです。

日本最大のディスカウントストアとして展開

大量の計画仕入れ、計画販売による低価格の実現

ディスカウントストアの魅力の一つとして低価格という点があげられます。計画的に大量に仕入れスケールメリットを活かして値下げをし、しっかりと売り切る。この小売業の理想的な流れを実現させたのが安田隆夫氏です。

社名の由来は?

そもそもドン・キホーテ社は株式会社ジャスト、という会社が前身の企業です。「ドン・キホーテ」という名前の由来はもちろん、スペインの文豪セルバンテスの「ドン・キホーテ」という作品がモチーフになっています。
ドン・キホーテという物語について、名前は聞いたことがある方が多いと思いますが、どんなお話か、ご存知でしょうか。
主人公はドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ。かれは50歳ほどの郷士ですが、騎士道物語の読み過ぎで現実と物語の区別がつかなくなってしまい、遍歴の騎士に成り切って、痩馬のロシナンテと共に世の中の不正を正す旅に出ます。自分をとりまく全てを騎士道物語的な設定におきかえて認識し次々とトラブルを巻き起こしてく・・・というお話です。
なぜドン・キホーテなのか?というと
「既成の常識や権威に屈しないドン・キホーテのように、新しい流通業態を創造したいという願いを込めています。」
とのことです。

スーパー低迷の理由について

著書。ドン・キホーテの「4次元」ビジネスの中では安田氏が考える日本のスーパーマーケット業界においての課題点について述べられております。そもそもスーパーマーケットが過去に繁栄した要因ーチェーンストア理論ーへの反論を書籍内では行っております。
そもそもチェーンストア方式とは中央集権型、商品企画や仕入れなど本部にて行い、各店舗は一括大量仕入れ、ボリュームディスカウントを適用された商品を売り切る。大量出店大量仕入れのこのメカニズムは時代を席捲したようです。
しかし時代は変わり、統一フォーマットの適用により、本当にお客様が望むものを取り入れられなくなってきました。要はスーパーは倉庫にある在庫を全て売り切るところに焦点を当てて、自分たちが売りたいものを売っていたのです。

現代の小売業の在り方

上記のような売り方では今のモノが溢れいる時代では到底上手く行きませんよね。著作の中にも記載されていますが、フリーマーケットに足を運べば、どれだけ一般家庭にものが余っているのか、がわかると思います。これは確かにその通りであると思います。メルカリなどが消費者の購買構造を変化させている今、スーパーマーケットは方向転換を余儀なくされていると言っても過言ではないでしょう。
安田隆夫氏の言葉を引用するのであれば、小売業はCV+D+A、便利で安く、アミューズメント(面白い)店を目指さなければ行けないでしょう。

来て楽しい店舗を

今の日本では24時間365日開店をしているコンビニエンスストアが至るところにあったり、夜中にお腹がすけばファミレスに行くことができます。ただ安いものが欲しければネットオークションなどで購入することだってできます。
そういった小売業の中で成功するために安田氏が心がけたことは、低価格や利便性だけではなくその他の動機づけがなければならないということです。
アミューズメント。楽しみという表現を安田氏は著書の中で使用していますが、要は消費者が必要なものを買いに
ドン・キホーテに訪れるというだけではなく、ドン・キホーテが面白いから行ってみよう。ドンキに楽しみに行こうという動機があれば、他の小売業と差別化をすることができるということでした。

このような理由もあり、ドン・キホーテでは比較的狭い通路に商品を高く積み上げるレイアウト方式を採用したり、商品の使用方法についてのVTRを店内の至る所で流したりしています。
なるほど確かに、夜中でも光り輝いている店舗や陽気なテーマソングなど消費者を楽しませようという安田氏の狙いがよくわかりますね。